inspired by 『ぼくらの仮説が世界をつくる』
著者は佐渡島庸平さん。
『宇宙兄弟』『ドラゴン桜』を育てた編集者で、現在は株式会社コルクという作家のエージェント会社をされている人です。
書店でみつけていわゆる「ジャケ買い」しました。
帯びの糸井重里さんによる、
これは、ここからを生きる人の「ぼうけんの書」だ
というコピーに魅かれたのだと思います。
はじめにの部分でこのような話しがなされます。
学生時代、友人と楽しく話しはできても感じる孤独。
就職して編集者になってから孤独感が消えた理由を自問して出た答え。
「ぼくはずっと、すごく好きな本について、誰かと深く語り合いたかった」
前に自分も同じようなことを書きましたが、好きなものの話しができる人がいることによって心が満たされることは、本当に幸せなことだと思います。
続いて、日本のスポーツ産業が、欧米と比較して大きくならない理由を「語る場所の不足」と推測し、それは著者のフィールドである出版業界にもあてはまることだと推測します。
そして「ITを使って心的距離を縮め、感情をシェアするサービスを生み出すことで、同じ嗜好を持った人びとが集まるコミュニティが生まれるだろう。(後略)」と仮説をたてます。
この辺りはきっとその通りだと思うし、スポーツ・出版に限らず特にエンターテイメント全てに当てはまることじゃないかなと思います。
ブログはそういう意味では先行しているのでしょうか?
ブロガーさんの中にはそういう状況(同じ嗜好を持った人びとが集まるコミュニティ)になっている人が見受けられるように思います。
本書の中盤で「居場所を見つける」ということが重要なこととして語られます。
その際に「作品がアイデンティティと結びついていることが多い」ことが語られます。
自分の好きなものを伝えることは、自分のアイデンティティを伝えることになる。
自分の好きなものを好きな人は良い人にちがいない、自分と同じものが好きな人のことも知りたい、というようなことが語られます。
ブロガーさん達が交流しているのをブログで見ると、まんまその通りだなと思います。
そういう自分も、自分の好きなことが書かれてる文章は、次から次に読みたくなりますね(笑)
この人きっといい人だってなりますし(笑)(笑)
著者は「インターネット化」のキーワードを「全体的」という言葉で表現します。
「インターネット的」な世界では、すべてのことが可視化されて、コントロールや隠すことが不可能になるのです。
こういった状況では作家も、本というプロダクト一つではなく、そのまわりに付随するすべてを、誠実にパプリッシュしていくことが、求めらていくようになります。
このことはこの本だけでなく、いろいろなところで言われているように思います。
「評価経済」という言葉で語られていることと同じことでしょうか?
SNSで交友関係、会話が目に見えるようになり隠すことが不可能になり、ネットでの評価がリアルの評価に影響することが、今では様々な場所で語られているように思います。
本の内容に戻ります。
著者は「パプリッシュ」という言葉を「本を出す(出版する)」という意味だけでなく「公にする」という意味と考えます。
そして作家の頭をパプリッシュするには、本だけが答えじゃないという考えに至ります。
著者は本の形だと、作家が創造したものの10%くらいしか使用できないと考え、それを雑貨やアパレルなどの商品に落とし込むなどして、30%、40%に高めていくことがこれからの時代の編集者の役目だと考えます。
これもその通りだと思うし、作家だけでなく、ミュージシャンなど表現をする人たちはみんな同じ状況だと思います。
CDが売れなくなったことは随分と前から言われていますが、ミュージシャンもCDだけでなく「世界観」みたいなものを打ちだしていく必要があると思っています。
余談になりますが、The Hayseedsというバンドのドラマー星川 崇(ホシカワ ソウ)さんのブログにinterestingな記事が多く、楽しく読ませてもらってます。
著者はベストセラー作品をどんな手法で作ったかを聞かれた際に、作家と編集者が、自分たちが読みたいものを作っただけと言います。
また、何をモチベーションに動くのかということには「やりたいから」と言います。
そして、「やりたいことがある人」を、確実に自分の好き嫌いをはっきりと把握している人、好き嫌いがわかっているというのは、自分の欲望のあり方を正確に把握している、と続けます。
「やりたいことがある人」=好き嫌いを把握している=自分の欲望のあり方を把握している。
まさにその通りだと思います。
世間では意識しないといろいろなものが勧められてきます。
テレビ、雑誌などは分かり易いのですが、歩いているだけでもいろいろと誘惑してくる商品や広告などが目に入ってきます。
また学校でも会社でも、「こうあるべき」というものが自覚無自覚が入り乱れて入ってきます。
(ある種の会話は「こうあるべき」が前提になってたりするから更に難しい)
その中で自分の欲望のあり方を把握することは本当に難しいです。
自分の好きなブロガーさんは、自分の欲望のあり方をはっきりと把握し、自分の大切なものだけを選んでいく姿勢を示されており、とても勇気づけられます。
著者も自分で自分を理解することは難しいことを書かれています。
著者は「自分の感情を信じない」ようにしているようで、ウェアラブルデバイスを使い、データで自分を「客観視」するようにしていると書いています。
「機嫌が悪い」というのが「眠かっただけ」というようなことはよくあるようです。
また、「自分を知らない」ということの中には、自分には普通すぎて面白くないようなことでも、他の人には面白いようなことがあるというようなことも実体験を交えて書かれています。
(ブロガーさんがブログを書くように勧められるのと似てますね)
と、いろいろ書きましたが、まだまだinterestingな内容がたくさん書かれた本です。
ビシネス書の括りに入る本ですが、エンターテイメントに関わる人に読んで欲しいと思いました。